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常山紀談

東照宮と武田の兵と、大天竜にての戦に、近藤伝次郎手おひて、渡辺半蔵守綱お見かけ、手おひたるぞ、つれて退けよといふ、心得たりとて、手に提げたる首お投すてヽ、伝次郎お肩にかけ、三里あまり引退てたすけヽれば、東照宮聞召、味方一騎討るれば、敵千騎の 強みといふ事あり、味方おたすけたるは、七度の鎗お合せたるよりもまされり、今より後、鎗半蔵といふべしと仰あり、〈○中略〉
又一説に、永禄五年九月、参河の八幡にて、今川氏真と三河の軍、戦ありて利あらず、二手にわか れて引退、敵急に迫かくる、半蔵守綱、石川新九郎、返し合せ、三度鎗お合す、後には半蔵一人十度 に及て小返しして、又三度鎗お合す、矢田作十郎、足おいたみ引かねたるお、半蔵肩にひきかけ て退きけり、これより鎗半蔵と人にいはれしといへり、