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経済録
九/制度
近世の俗に、名に吉凶有と雲て、韻鏡にて反切することお貴ぶ、是に因て反切して吉なる字お択ぶ、故に人の名多く同じ、士庶人は衆多なれば、同名多きこと雲に不足、諸侯は海内に三百人には過ざる数の中に同名あり、且吉凶お雲に因て、一生の問に、幾度も名お改る者多し、常に称する仮名お改るには、君上に請て許お得て改む、名お改るは請事もなく、自由に幾度も改む、是何(い)か成惑ぞや、愚昧の至り、義理に背けること也、願くは上より令お出して、韻鏡にて反切することヽ、随意に名お改むることお厳禁せらるべし、名お反切することは、異国は勿論なり、日本にても七八十年来のこと也、是義理お害し、人お愚にする大悪俗也、此事お禁止せられば天下の大幸ならん、上に雲へる如く、名お通行する風起らば、人々自然と同名お避んとすべし、韻鏡にて反切することお禁ぜられば、名に用る字広く成て、遠き字おも求むべき故に、同名少かるべし、然れば名お行ふことお命ぜられんには、反切することお必ず禁止せらるべし、