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類聚名物考
姓氏八
謔名 しこな 〈俗雲〉あだな あざな
あざなといふに二つのわかち有、名字とて、漢ざまに儒生のつけるは、名おいふまじきが為につくこと也、これは俗にいふ阿太奈(あだな)にて、実名に対へて他(あだ)名なればいふなり、万葉に、遊行女婦之字也といへるが如き是也、あるは盗人の名に袴垂、または大殿小殿などもいひ、伐株の僧正、堀地の僧正、 強盗法印などいへるが如き、一時のたはぶれ秀句などによて名付おほするおいふなり、是はたはぶれより出たる事なり、されども此類又多し、その初おいはヾ、神代に〈古事記上〉火照命お海佐知毘古といひ、火袁理命お山佐知毘古といふが如きも、字(あざな)といふに似たり、又同じ火袁理命お、塩土翁が詞には、虚空津日高ともいへるも同じ意也、又案に、唐人紀事の中に、小名録一巻有、その中に怪名造字一則有、この怪名もこの類ひにちかし、しかしそれは奇字おもて名とせるなれば、同じとは雲べからず、