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明良洪範
二十三
或時六左衛門に、弓の事仰せ仕られし、冬の事なりしに、早速削りて、雪中に自身肩に打かヽげ、馬に乗蓑笠著て登城しける、秀次公矢倉より御覧有て、賤しからぬ武士、馬上に何やら荷ひたるぞ、不審さよと有し所へ、吉田六左衛門御弓仕りたりとて差上るに、御心に協ひける故、早々召出され、隻今城下お見るに、馬にて弓程の物お荷ひ来りしは女なりやとの事に、私にて候と答に、家来は持ざるか、自身馬上にて荷ひたるは如何と尋ね給へば、されば御調度の第一にして、御手に取らるヽ器故、争で下々に持せ申すべきと申上しかば、別して感賞有て、雪お荷ひたる形気面白けれ、号お下さるべし迚、雪荷の二字お給ひし故、以来雪荷と雲一流お立る、吉田一族の内にて、弓の上手也、