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折たく柴の記

九月〈○正徳三年〉廿八日に、文昭廟の御鐘銘お撰み参らす、〈○中略〉去年かくれさせ給ひし後、伝奏より御院号の事、いづれならむにも、思召ところに任せらるべき由お、うち〳〵の御気色なりとて、其字二つ三つ記して参らせられたりしお、詮房朝臣、某に見せらる、御院号の事は、外国にも後代にも相伝ふる所なれば、いかにも然るべき字こそあらまほしけれ、文と昭との二字のうちおもて、宜しく撰み下さるべき由お、申させ給ふべき草お参らせたれば、老中の人々、其由お答へ申されしに、勅して文昭の字おぞ賜らせ給ひたりける、前代の御廟号おも、当代の御名の字おも、某が撰みし所お、禁裏にも仙洞にも取用させおはしまし、某又御廟の御鐘銘おも撰び参らせし事ども、誠に辱き事どもなり、