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今昔物語
三十
会平定文女出家語第二
今昔、平の定文と雲ふ人有けり、字おば平中と雲けり、極たる色好みにて、色好みける盛に、平中に行にけり、中比はに出てのみなむ色は好ける、其の時に后の宮の女房達、其の日に出たりけるに、平中此れお見て、色好み懸りて仮借しけるに、返て後に平中消息お遣たりければ、女房達車也し人は数有しお、誰か御許に有る消息にかと雲せたりければ、平中此なむ書て遣たりける、
もヽしきのたもとのかすはみしかどもなかにおもひ
此れは武蔵の守のと雲ふ人の娘にてなむ有ける、其の人なむ色濃き練お著たる、其れお仮借する也けり、然れば其武蔵なむこの返事はして雲ひ通しける、此の武蔵は、形有様微妙き若人にてなむ有ける、