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松の落葉

男女の名昔やうにつくはひがことなる事
女の名、歌よむ人は、なに子といふお、みやびたりとこヽろえて、たれも〳〵、なに子くれ子とぞいふなる、いにしへにこそ、さやうの名はみゆれ、今の世はなべてのふりにあらねば、わろきこと、なに彦くれ麻呂のごとし、しかのみならず大同弘仁のころよりは、皇后内親王女王のみ名、なに子くれ子といふにさだまれるやうになりぬれば、下ざまの人は、心してさる名はつくまじきことぞかし、さていやしき女は、むかしはなにめといへる多し、たヾし此ごろのに同じきもあり、おもひいづるまに〳〵、ひとつふたついはん、続日本紀に、八重、古今和歌集に、まち、後撰集に、そで、大和物語に、むつなどなり、かくいにしへに例あれば、かうやうの名つくとて、何のさとびたることかあらん、