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平家物語

妓王事
京中に聞えたる、しらびやうしのじやうず、ぎ王ぎ女とて、おとヽひあり、とぢといふしらびやうしがむすめなり、しかるにあねのぎわうお、入道相国、〈○平清盛〉てうあいし給ひしうへ、いもとの妓女おも、世の人もてなす事なのめならず、〈○中略〉京中のしらびやうしども、ぎわうが、さいはひのめでたきやうおきひて、うらやむものもあり、そねむものもあり、うらやむものどもは、あなめでたのぎわう御ぜんのさいはひや、おなじ遊女とならば、たれもみなあのやうでこそありたけれ、いかさまにも妓といふ文字お名に付て、かくはめでたきやらん、いざや我らもついてみんとて、あるひは妓一妓二とつき、あるひはぎふくぎとくなどつくものもありけり、そねむものどもは、なんでう名により、文字にはよるべき、さいはひは、たヾぜん世のむまれつきでこそあんなれとて、つかぬものもおほかりけり、