[p.0814]
そヾろ物語
歌舞妓おどりの事
見しは今、江戸にはやり物しな〴〵有といへども、よし原町のかぶき女にしくはなし、〈○中略〉慶長のころほひ、出雲の国に、小村三右衛門といふ人のむすめに、くにといひて、かた(容)ちゆうに、心ざまやさしき遊女候ひしが、〈○中略〉此遊女男舞かぶきと名付て、かみおみじかく切、折わけに結、さや巻お指、きたの(北野)つしま(対馬)のか(好)みと名付、今やうおうたひ、ふぢよのほまれ世にこえ、顔色無双にして、袖おひるがへすよそほひお見る人、心おまどはせり、それお見しよりこのかた、諸国の遊女そのかたちおまなび、一座の役者おそろへ、舞台お立おき、笛、たいこ、つヾみお打ならし、ねずみ(鼠)戸お立て、是お諸人に見せける、中にも名おえし遊女には、佐渡島正吉、村山左近、岡本織部、北野小大夫、出来(でき)島長門守、杉山主殿、幾島丹後守などヽ名付、是等は一座のかしらにて、かぶきの和尚といへるなり、