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備前老人物語
織田内府へ生駒万兵衛といひし人、新参の時、ある人はじめてしる人になりて、貴殿の名、三つの不審侍り、ま兵衛か、まん兵衛歟、まん兵えん歟、しかとうけたまはりたく存ずといひけり、その時万兵衛申けるは、不審し給ふ所、余義なし、なにやうにも、くるしからず、その人の腹中に虚実あればなり、腹空虚の時には、はねていふべき力あるまじければ、ま兵衛との給ふべし、又腹中充実して、酒気など盛ならん時は、まん兵えんとはねらるべし、その本名は、生駒万兵衛と申者也といひけり、かのとひし人々、又いふべき詞なかりしお、さはらずして、味ある返答なりと、皆人いひけり、