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草木育種後編

斑葉間(いさは)道の事 邦俗いさ葉といふもの、古へは是お愛玩する事も聞かず、近来享保の此より世に愛玩する人あり、今はこれお斑(ふ)入り】といふ、戸々愛玩せざるはなし、唐山にいふ斑ありといふ、杜衡の類此にいふ斑入とは互へり、又瑞香の類の葉の周囲に白色なるお銀辺といふ、黄色なるお金辺といふ、玉簪萱草(ぎぼしわすくさ)の類、条に筋あるお糸紋また間道といふ、灌園先生雲、白色おしろふ(○○○)といふ、黄色なるお黄斑(○○)といふ、初黄後白色になるお後ざへ(○○○)といふ、上品なり、春の葉白く斑ありて、秋に至り斑のきゆるお、後くら(○○○)みといふ、下品なり、又はけめの如くすぢあるおはき込(○○○)といふ、葉中心にのみあるお、中斑(○○)又中おさへ(○○○○)といふ、葉の辺緑色なるお青覆輪(○○○)といふ、円くぼやしたるおぼだふ(○○○)といふ、小円点又細白点あるお砂子(○○)といふ、其外千変万化逐件しるすにいとまあらず、都而斑葉(いさは)は人の癜風(なまづ)の如く、毛のある処に至れば、少年の人にても白髪となるが如し、斑入は実生よりも生じ、又一枝偶然斑葉になるもあり、自然に出るものなれば、深山にもあるものなりと、又近来荷蘭の説、花の雌雄蘂(ずい)あり、雄木雌木(おきめき)ありて、花蘂交接の論によりて考るに、譬へば菘或は萊蔔(だいこん)に斑入ありて、又別種の菘萊蔔に斑お生ぜしめんと思はヾ、其菘の花開く比に、斑葉の菘の花粉お振蕩て、実お結びたるお採りて蒔けば、斑いりの奇菘お得べし、喜任〈◯阿部〉按に、今花戸にいふ処斑入に各の称呼あり、芽の出る比に赤みあるお紅かけ(○○○)といふ、青葉同様に見え、うらに少し斑の見ゆるおかげふ(○○○)といふ、この品お接木とし、又手入にて真の上斑となる事あり、又枝に斑ありて、其次の葉は青く、又其次の枝に斑あるおもぐり(○○○)といふ、金辺烏木(ふくりんおもと)毒など、折々中にすぢの入るおけ込(○○)といふ、又木お斑葉にするに奇法あり、よく考へ見るべし、薮下の勇蔵といふもの、羅漢松お砧(たい)として、これに斑葉の品翁まきと呼ものお接置たり、砧よりも芽お生じたれど、又景色にもとすて置たれば、砧芽に実お結びたり、是お蒔たるに斑入二本青葉二本出たり、是に依り考るに、砧の勢お吸上る計りにてもなく、砧へも穂の気お吸下るものと見ゆ、この例によりて外の品も接て試みたきものなり、