[p.0015][p.0016]
地錦抄附録

当世実生にてかはり花出来るは珍花なり、古花といへども、好花はいつまでも上花なり、新花といへども、すぐれざる花は雑色なり、衆目の見る所かはるまじ、今世間に牡丹菊等手前実生に植出し、さして秀ざる花も上々花といひ、殊に他の花お悪敷と譏るあり、自讃毀他にて花の好士というべからず、我他の花お譏らば、人又我が花お悪敷といはん、言勃て出るものは、又勃て入るの聖言必せり、是則花おそしり合といふにて、花遊に慢心無益なるべしや、われ実生に植出したればとて、不宜花は世間に用ひず、能花は卑下すれども人褒美す、世上のながめとなりて、他の褒美にあふこそ花の威光にて、花主の規模なれ、総て好花はよく、悪敷花は雑花とほどほどにながめて捨ざるお花好士といふなるべし、佐々羅(さゝら)、山布(さつほう)、烏頭(うづ)、鶏頭(けいとう)、空穂(うつほ)、瓢蕈(へうたん)、糸瓜(へちま)の川骨破笠(かはほねはりつ)、鼔小花(つゞみこはな)にいたるまで、花盛りに開く時は、一花一景のながめありて、心おやはらげ、鬱気おひらき、容止お咲するは万花の景気なり、尺地にも植べきものは、草花が中にも、薬草は朝夕ながめて花葉お知り、薬性の宜なるもの百品の葉お摘黒焼として薬お調ぜば、真の百草霜なるべし、薬店に売る物いかヾ、疑らくは百薬草はあつめがたきもの也、又は其根おとりて、古人の教のごとくに製法して見たるも慰ならずや、唐和のかたち、大小の異あるは土地にもよるべし、草花のるい土地に合たるは花大りんにして、色よくひらく、土地に合ざるは花形不出来也、牡丹、芍薬、菊等も、花壇の土相応なるお、毎年入かえ吟味して植れば、花形よく艶色して大りんにひらく、その根は日に干てほそらず、油ぎりて性よし、野土に植たるは牡芍の根日に干てほそくしなびて、各別なるにてしるべし、其根つよくして花葉さかふるの理なれば、草花お植作る一助ともなりぬべし、