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剪花翁伝
前編一凡例
花形分解之弁 夫冬より春の花は、莟(がん)なるもの久くして蕾(らい)となり、一旬許して蓓(ばい/つぼみ)となり、三五七日許して開花するなり、夏より秋の花は、今朝の莟、午の刻までに蕾となり、夕方より蓓に成、翌早朝開花する也扠莟は麁(あら)皮にて包めるおいふ、蕾は葩の貌、既に莟の中に萌し満て綻るものおいふ、蓓は葩既に半外に顕て、開花せんとするものおいへり、乃上層に摸するごとし、〈◯図略〉 右各樹草によて、萼(はなぐき)の形ち異同あり、 再雲、莟蕾蓓おいづれもつぼみとよべり、初お莟といひ、中お蕾といひ、後お蓓といふ、莟は含(がん/ふくむ)也、是牙( /おくば)音にて堅く、奥に在ていまだ発せず、 蕾は雷( /なるかみ)也、是舌音にて、内に鳴響て既に萌し発す、蓓は倍也、是唇音にて外に発し葩お顕す、形蕾に倍せり、