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大和本草

論物理〈◯中略〉 草木の性各異なり、植るに天の時(○○○)あり、春夏秋冬と十二月と、各植て宜時あり、天の時に順て植べし、又植るに地の宜(○○○)あり、黄黒の埴土に宜あり、軟沙土に宜あり、陰地に宜あり、陽地に宜あり、燥湿水陸各宜不宜あり、糞肥お好むあり、悪むあり、地の宜に順て植べし、是孝経に所謂、用天之道因地之利也、是種草木之法也、不可不識、〈◯中略〉 橘柑金橘は寒お畏る、故に深山の中、又寒国にはうへても栄へず、活しても実ならず、京都も寒土なれば橘柑まれなり、北土及信州には橘類なし、柚は山中にもあり、朝鮮は寒国なる故、橘柑の類及茶なしと雲、此類南方の暖地に宜し、故に紀州駿州肥後に多し、芭蕉、鳳尾蕉、蕃薯等寒国にはなし、茶は山中にも亦有之然れども北土及信濃は甚寒き故茶なし、北土、奥州、羽州には、畿内、近江、美濃より、茶お越前の敦賀につかはし、舟にのせて右の諸州に売る、竹も北州にはまれなり、信州岐阻の谷中には竹なし、檜の小枝お以て桶の〓とす、竹壁竹簀すべてなし、中華にも南方の閩中には、茘枝、竜眼、仏手柑、橄欖、甘蔗等あり、北土には無此品、 周礼考工記曰、橘踰淮而北為枳、鸚鵒不踰済、貉踰岷則死、此地気然也、〓含南方草木状曰、嶺喬已南無蕪菁、種之則変為芥、〈◯中略〉 莪朮、鬱金、生薑、紅蕉、幽蘭、赬桐、蕃薯、芋之類皆畏寒、冬在甫中則根悉煉死矣、埋之於向陽煖処則活、若夫在南州煖地者、栽彼土甫中亦不死、是地気(○○)之令然也、