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地錦抄

江府三土(かうふのさんつち) 武陽の名土といふにもあらず、江府にて草木植作るに集合して肥良の土なり、何国にても如此の土見合可用、 葛西真土(かさいのまつち) かめいど辺よりなり平、隅田川の筋、みな真土にて、かさいに似たり、小石まじりたるは砂真土なり、よくふるいてつかふべし、 武蔵野土(むさしのゝつち) 巣鴨村辺より板橋染井筋、野土にてむさし野に似たり、但しくろめなるお上とす、赤めなるは土の性おとれり、八王子の砂(すな) 目黒辺にも間々あり、雑司谷王子の筋大方似たる砂なり、但し白めなるお上とす、黒め赤め成はわるく、小石あらばふるひて用、 右三色の土等分に合たるは、何れの草木お植ても相応せり、但し草木により、少宛かわるも有べし、たとへ牡芍(ぼしやく)といへ共、牡丹は三土よし、芍薬は砂と真土等分に野土無用にてよし、蘭は砂真土等分に、蘇鉄は砂ばかり真土少入たるも吉、さつききりしまは野土ほどよし、砂真土あしきたぐいそれ〴〵かんがへべし、古き土蔵などこぼちたる壁土、是三土集合と同、〈土蔵はへな土多く入りてよろしからず、中ぬりかべは最上の三土也、〉雨のあたらぬ様にたくわへ置て草木に用べし、