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農業全書

接木之法 木お接法様々あり、先台木お兼て子種(みうへ)にし置きたるがよし、山野より俄にほり取たるは、第一は細根多く付ずして皮めもあらく生付かぬ物なり、仮令つきても盛長おそく、後々年おへては、子うへのだい木に接たるには劣れり、山林より取たりとも、根に疵なきお用ゆべし、其ふとさ凡やりの柄ほどなるお中分とすべし、梨柿桃栗梅桜の類は、大き木に中つぎにしたるもつく物なり、柑橘の類は高くはつぐべからず、だい木の大小およく見合せ、ふとき程高かるべし、されど高くとも一尺ばかりには過べからず、又下(ひき)くとも四五寸に越べからず、下きは活やすけれども、台木の皮切口お包む事遅し、小き木高ければ、木の精上りかねて、穂に及ぶ生気乏しきゆへ、枯るヽ事あり、四五寸一尺の間お中分とすべし、歯の細かなる能きるヽ鋸にて引きり、切口お見ればまきめあり、其巻目の遠き方に穂お付る物なれば、其方お少高く削り、接穂の長さ三四寸、本の方お一寸余、肉お三分一ほどかけてそぎ、返し刀少しして口にふくみ、口中の生気お借り、扠だい木の穂お付る所お、穂のそぎたる分寸に合せ、肉の内に少かけて皮おひらき、小刀のきりたる肌おむらなくして穂おさし入、竹の皮か、おもとの葉、古油紙にても、一重まき、其上おあら苧か打わら、又は葛かつらの皮目にて、手心にて、しかと一寸四五分も巻て、其上お又雨露もとおらず、蟻も入ざるやうに稠しく包み巻て、日おほひはおもとか竹の皮にて、日かげの方よりは、穂のさき見ゆる様にあけて包み置、廻りお鶏犬もさはらぬやうに竹おさしかこひ、わらかこもにて包み、上お少し明けて雨露の気少し通じ、気のこもらざるやうにすべし、猶泥にてだい木の切口の下二寸程まで厚くぬり廻し、雀草(すゞめぐさ)おうへて、うるほひお引べし、其後旱つよくば、水おわきより、朝夕少づつそヽぎ、だい木の廻りおかはかすべからず、だい木の皮の一方お切はなさずして接たるお、袋接(ふくろつぎ)といふなり、又皮お穂のそぎたる寸によく合せ、そぎはなして穂の皮目と、だい木の皮の方と付合、心得して少かたよせて、穂お付る事よし、 又水接(みづつぎ)は穂の本おながくし、だい木に付る所お、一寸半も穂の肉お少かけて、むらなく削り、口にふくみ、さてだい木のそぎやうは替る事なし、但きりひらくに下の所お少横に切、皮おわきにおしひらき、穂お合せ巻包む事前に同じ、さヽいがらにてもなき所ならば、竹の筒にても穂の本おさし入れ、風にもうごかぬやうに台木に結付おき、冷水お入れ、夏中は水のぬるまざるやうに、頻りに水おかゆべし、よく付て皮肉よくとりあひたるお見て、冬になりて穂の下に出たる本の所お、よくきるヽ物にて切はなすべし、其まヽ置けば痛み枯るものなり、 又さし接とは、穂おながくして、芋魁(いもがしら)か蕪菁(かぶら)にても、だい木のきはに肥土にて埋みいけて、雀草おうへ廻し、穂の本およくそぎて、いもがしらに深くさしこみ、接やうは水つぎに同じ、 又木お接に三の秘事あり、一つには木の肌への少青みたるお見るなり、二つには穂もだいも節の所お切合するなり、三つには穂とだいとの皮肉の取合およく見て接なり、此三術お違へずして接たるは、活ずといふ事なし、〈◯註略〉 又よせつぎはよきほどの台木お樹のわきにうへおき、或は木によりて桶などにうへ、其木のわきによせ置て、穂のある枝お引たはめ、木お立て地に打こみ、其木にしかとゆひ付置て、接事は前に同じ、是は百活うたがひなし、されどはなし接のよくつぎたるよりは、盛長遅し、いかんとなれば、接時手心其外思はしからざる故なり、此外も接法ありといへども、さのみ替事なし、但壮年の人の接たるはよくつきて、老人は精神乏しきゆへ、多くは付かぬ物なり、