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草木育種後編

接換(つぎほ)之事 明月記曰、寛喜二年三月七日両株八重桜〈一条殿枝続木〉花漸開、永日徒然、令栽菊苗、〈草不憚土用〉これ本邦にても続木の事旧し、花鏡曰、如樹発生時、或将黄落時、皆宜接換、大約春分前、秋分後、是其脱胎換骨之候也、凡樹生二三年者易接雲雲、貝原花譜雲、樹おつぐに、日あての方南にむかへる、うるはしき高き枝おきりて、客(ほ)木としつぐべし、実多し、日かげの枝お用ゆべからず、接木の枝お遠方より取寄するに、小箱に土お入、枝お横にうづみてよし、数十日おへてかれずといふ、喜任〈◯阿部〉按に、今は蘿蔔おきり、これへ穂お〓して遠に送り、又日お過ても新に切りとるものに同じといふ、貝原雲、接木のだいよりひこばへ出ば、はやくつみさるべし、接頭つきて後とき〴〵心がけて、ひこばへおつみ去るべし、もし是お去らざればつぎほ枯る、或はかじけて長ぜず、喜任按に、砧より芽お生ずる時は、根にも新根も生ずる故に勢よし、必ずとり去るものなれども、こヽに又少し見合てよき場もあり考べし、接ほも勢よき時、砧芽お生じたるは少し置き、芽四五寸にも及ぶ時、切り去るべし、灌園先生雲、諸木ともに春少々暖気にて、根より枝幹へ精気のぼりて、芽未破れざる時およしとす、故に諸木共に葉お生ずる十五六日前に接てよし、近来扁柏(ひのき)ひば類の穂お樹皮に挟み接ぐ事あり、砧は比翼ひば扁柏花柏(さわら)等に接、鉢植なればつくあひだ日陰に置、節々きりお吹かけてよし、〈◯下略〉