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松屋筆記
五十一
杉のさし木の伝 中陵漫録四の巻挿杉条に、杉は挿木にしたるは皮目の処少し白く、其内は皆赤身也、薩州にては毎年四月の比、杉の枝お二尺許に切取り、六本お二把として、山中の泉に浸し置事四五日、取上て赤土の泥中に塗て、山野の空地に杖お立て穴お為し、深さ七八寸に至る、猶地の堅き処は穿つ事なし、此穴中に挿む、風吹時は回転す、雨露の潤お歴て自ら堅定する也、大抵百本の内七八十本活(つく)、是より手附るに及ばず、土地の宜き所には猶長じ易し、先春に至てその木の素情お見立、葉の先新葉お出さんとするお〈俗にあうめと雲〉採て挿時は、百に一失なし、苗お仕立植るに勝れり雲々、与清曰、〓(さしき)は今年延(のび)の若枝(ばえ)お挿には、葉茎かたまりてさす、長さ二三寸、或は四五寸にし、葉おほければ切捨て、その本およく切て、赤土の中に黄色なるお採て、煉て丸くして、それに挿てさて植る也、これお玉〓(たまざし)といふ、良法也、何の木にても此定也、時刻は雨気の日巳の刻以前がよし、未明より巳刻までお限とすべし、さて後に度々水お漑がよし、物理小識九に、杉〓(かわくは)不宜、水壌種之、亦発(ほこる)、然挺茂不久焦枯也と見ゆ、