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種樹秘要
〓木( /さしき)の法 木お〓すに四法あり、一に管〓( /くださし)、二に撞木〓( /しゆもくさし)、三に玉〓、四に(割〓 /わりざし)是なり、総て〓木は種児お蒔く如くにして、世に名高き美味の果実と、麗艶なる名花等お、無造作に生ずる業なるお以て、種樹家に於て講習せずんばあるべからざるの法なり、凡そ此〓木の仕方は、二三月に致すべき者なり、或は梅雨中に行ふべき有り、或は八九月頃に〓べき者あり、其中に梅雨中に〓べき者は殊に多し、総て此法は、大風或は俄照( /にはかひより)の日には、決して宜らず、但し風無く平和なる日の雨気お催したる日は最も宜し、其刻限は太陽の高く上らざる以前、巳の上刻までお良とす、土性は赤野土黒野土にても、粘気( /ねばりけ)の少なく常に潤のある日陰なる処お撰て〓べし、 一管〓は其枝の梢に勢ひ充て、未だ芽の出ざる前か、或は今年延たる、新枝ならば、葉の茎固まりたるお、長さ二三尺許に切り、葉多ければ二三枚残し、其余は悉く剪み捨て、〓方おば小刀にて削て、赤土の湿気の有る陰に〓べし、〈◯図略〉或は〓方お利刀にてはすに搭も宜し、 二撞木〓は拇指許に太りたる枝の椏枝( /また)あるお二三尺に切り、下に為りたる一枚お残し、其余おば皆切捨て、〓す所の切目お小刀にて清楚に能く削て〓すなり、〈◯図略〉 三玉〓は〓( /さす)べき梢お長さ三四寸に切り、葉多ければ二三枚残し、其余は悉く剪み捨て、〓方おば小刀にて清楚に削り、黄色なる土お煉て、団子の如くに丸め、此土に〓て土中に植う、此お玉〓と名く、所謂此黄土は地お三尺も掘るとき、底に黄色にして堅く粘気ある土お生ず、此土お煉て〓木の玉に用ふ、総て此土は〓木の根お生ずること妙効あり、〈(図略)若し黄色土の無きときは、赤土お用ふべし、〉 四割〓、凡そ山茶( /つばき)、茶梅( /さヾんくわ)、櫧木( /かし)、欅木( /けやき)等、性の堅き木は、其本お二つに割て、割たる間に小石お一つ挟み植るの法なり、〈◯図略〉 陳扶揺が秘伝花鏡曰、若果木須柬好枝先挿於芋頭或萊菔上、再下土時則易活と、今夫れ江戸の北郊大久保村にて、薔薇類は八月其枝お管に切り、芋に一本づヽ挿て、園中に植るに、皆悉く活て蕃衍す、又花鏡瑞香の条に雲、剪取嫩条、破開放大麦一粒、用乱髪纏之、入土中と、然れば此割〓に小石お挟むよりは、大麦一粒或は大豆一粒お挟たらんには、啻に根お生ずるのみならず、肥養とも成ぬべし、〈◯図略〉 信淵按ずるに、〓木に種々の説あり、其中に於て便良なるお撰び用ふべし、玉〓に芋お用ひ割〓に大豆お用る如きは良法なり、玉〓に芋お用るときは、旱継ても乾燥すること無く、霖久にも湿ひ過ること無く、〓たる枝は傷まずして、其芋の腐て根お生ずべきお以てなり、〈◯中略〉 松、杉、扁柏( /ひのき)、樅、櫧、欅、椋( /むく)、七葉樹( /とちのき)、皆新枝お切採て、〓木するときは、能く活く者にて、苗お仕立るに宜し、多く仕立て植著くべし、其中松お植るに、湿地は宜しからず、凡そ〓木するには春葉の生ぜざる前と、秋葉の落たる後とに〓べし、 草類お〓には、葉も茎も能く固まりたる処お切て〓せば活く者なり、菊は莟の少し見えたる頃に〓べし、其前に早く〓ときは、根は多く生ずれども花は無き者なり、故に秋菊は八月上旬に〓お良とす、斯の如くするときは、茎短くして花あるが故に形色甚だ宜し、