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剪花翁伝
前編一凡例
温暖の頃、開花の速なるお、冷窖(ひやし)にて保たせる等は素の業なり、然るに冷寒の頃、未開の花お急ぎ、温室(むろ)に開かせる業などは、人作にして、天時に順はざるに似たれども、さにあらず、椿梅の類は秋より萌して、冷寒の至る迄に漸々咲出しぬれど、寒風霜雪行れては窮し凋みて、暫く開くこと能はず、されど春に至て悉く開花せり、是既に自ら萌し発ける蕾なるが故に、温室に助る時は忽ち開花するもの也、寒風霜雪の候、軽淡なる風土は、秋より冬に続て漸々咲出べし、かヽればいまだ萌さざる花お、温室にして開かせるにはあらじ、故に是お弁じ出せり、