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草木育種後編

変花催花(○○○○)の法 凡花の非時に発(ひら)くもの堂花といふ、亦温棚にて開かしむるものも、亦堂花唐花などいふ、是助け長ずるの類といふも、亦都下競ひ其早きこと以壮観とす、花鏡曰、似紙糊密室、鑿地作坎、編竹置花其上、糞土以牛溲馬尿硫黄、尽培漑之功、然後置沸湯於坎中、少候湯気熏蒸則扇之、以微風、花得盎然融淑之気、不数朝而自放矣、是近時の穴蒸(あなむし)の法に似たり、梅桜桃李都て春暖の気お得て発くものは、皆此法にてよし、霜に逢ふもの別してよし、其法は日あたりの山の横へ横穴お堀り、形竈に類す、入口狭くして三四尺計り、中間は四五尺の広さなり、中檀へ竹おあみて棚おつり、上にぬれごもおしき、其上へ盆栽お並べ霧お吹かけ、棚の下へ埋火おおき、こもにて穴の口お塞ぐときは、温気昇りて俄然花開く、しかあれ共大陽の光お得ざる故に色薄し、日にあてる時は色お生ずるなり、猶日に当るにも紙お隔て当る方よし、又薦にてちひさい小舎お作り、竹お編みて棚とし、上へ樹花お並べ、四方おこものぬらしこもにて口お塞ぎ、下へ剛炭お大火炉に入れ、花に霧お吹かけ、半時の間毎にこもと花とへきりお吹べし、少しにても乾くときは莟落るなり、一日一夜にして発くなり、泰崎氏雲、西洋人某、崎陽にて冬月西瓜お作らんとて、尽日大陽の当る地に穴お堀り、其中に西瓜の苗お植え、培養力お尽し、上に硝子の障子お施し、其上へ油紙一葉隔て養ひけり、寒月に至る頃、果して一瓜お結び大さも十分、皮の色深緑色なりければ、某大ひに喜び、日お卜して人お招き、右の西瓜お出し、これお食せんとて割りたるに、外皮とは大ひにたがひて、瓤は白色なり、味ひ更になしとかや、人力にて大陽の光力おからざれば、果も花も十分の香色はなし、唐花唯一時目お喜ばするのみなり、又翠藍桂川先生の説に、西洋にてがらすほいすといふものありて、硝子お以て果木お覆ひ養ひて、冬月葡萄お漂流の人に食はせし事ありと、