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草木育種後編

移栽(うへかへ)之事 花鏡曰、凡木有直根一条、謂之命根、〓小時栽便盤屈、或以磚瓦盛之、勿令直下、則易於移動、若大樹称春初未芽時、或霜降後、根傍寛深堀開、斜将鑽心、釘地根截去、惟留四辺乱根、転成円〓、仍覆土築実、不但移栽便、而結実亦肥大、灌園先生雲、久しく植付たる木お荒根といふ、これお植かへる事大事なり、大樹は直ぐに抜がたし、時のよき時、根の廻り半分堀り、根お切て元の如く土おかけ置、枝も少しきり置、来年に至り枝お多くきり、前年残したる根お皆伐りて、縄にて巻き、土の落ぬやうにすべし、扠植て根の下へ土のゆきとヾくやうに棒にて突込べし、又根の上へ細き土おかけ、水お多く入ながら棒にて突ば、水土お引て根の間へ入る、これお水うえといふ、然れども性湿お嫌ふ物には宜しからず、右の如くし、荒根お一度植かへたるものおかたしといふ、喜任〈◯阿部〉按に、是花鏡にいふ転〓(てんだ)なり、これは時節にかヽはらず移して活し易し、されど寒中暑天にはあしヽ、凡て落葉するものは、春月芽の未生ぜざる前、二月三月の比、秋は落葉して後九月十月の頃よし、冬木の類は新葉お生じてかたまりたる比四五月よし、柿は二三葉お生じ、四月の頃よし、商州厚朴(ほうのき)は四五月よし、〈◯中略〉 〈附〉諸木砧木仕立方の事 梅は春彼岸に気条(すあい)おきり、根も鉢へ入る程にきりつめ、横植にして置べし、芽少し出る頃鉢へ植付、十五日計り過て水肥(みづごへ)一度、又六七日過て一度かけてよし、水乾けば葉落るなり、土用前に落葉すれば花付ず、又肥過ては土用芽出て花付ず、土用明て十日計り過て水肥一度、又十日計り過て一度澆ぎてよし、しかすれば葉も落ず、花格別の勢あり、鉢うえは生かさずころさず、少しづヽ一日に二度づヽ水お澆ぎてよし、 桃桜は接て畑にて芽の出る比より曲冬の初に堀りかたし置べし、よきほどにきりつめてよし、桜は枝先迄まげてよし、切るはわるし、すべて〓木、接木、ともに春分前にうえかへてよし、〈◯下略〉