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草木性譜

松 百木の長にして陽木なり、其性温にして砺し、威有て猛からず、これお望めば巍然として、君子寛広の徳あるが如し、百歳お経る者、其枝横斜し、千歳に及び甚だ多寿なり、最黒松( /おまつ)〈説鈴〉赤松( /めまつ)お以て貴とす、黒松其樹皮厚く、其葉深青長し、赤松其樹皮薄く、其葉浅青短し、俗にこれお雌雄にするは誤なり、皆脂あり、又老松の根下に茯苓お生ず、是松の余気なり、春〓(すい)お抽で花お生ず、後新葉生ずる時、新条の本に白漦( /あわ)お発し、其漦中に必ず二虫あり、雌雄なり、夏に至り羽化して散出す、黄虻の小なるが如し、其虫赤松に多し、五鬚松( /こえうのまつ)、〈泉州府志〉白松( /しもふりまつ)〈華夷考〉海松( /てうせんまつ)〈本草綱目〉等の類には希なり、又松卵( /まつかさ)は夏中生じ、花と其時お異にす、明年に至りて熟す、其類属の中に、冬生ずる者もこれあり、又偶枝間に〓に似たる者数十生ず、其色松皮の如し、蓋し〓の変生なるべし、又偶老松断枝の痕に、夏より秋に至て蕈お生ず、まつおうじ(松翁芝)と雲ふ、其形地に生ずる松蕈に異ならず、性甚だ〓し、世俗に雲ふ、これお食すれば寿お延べ、或は煎じ服すれば疫熱お解すと、又寄生は其枝幹に寄寓す、葉対生し、狭細浅緑色、夏深紅色の筒花お開く、至て密なり、其葩弁の本、即実にして青緑色、明年春夏の際に至り、熟すれば深紅色、実中粘気甚し、枝幹に落て自ら蒙る穇子(ひえ)の初生に似たり、其根蔓の如し、偶根に花お開き実お結ぶ、凡寄生は桑、桃、柳、櫧( /かし)、桜、梅、梨、朴樹( /えのき)等皆これあり、各其樹に因て状お異にす、是其樹の余気変生する者なり、女蘿〈松蘿釈名〉は深山の樹木の皮間より生じ下垂す、糸の如し、即寄生なり、