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甲斐国志
百二十三産物及製造
一恵夫利古(えぶりこ) 蝦夷の方言なり、漢名詳ならず、本州に所産は加羅松と雲樹の、深山に有て老大にして、樹心朽て外枝未枯者に生ず、てれめんてーなの余液蒸て為木耳、色淡白して黄及び淡黒の横条数々あり、毎歳加長することは、以其条理知之べし、内肉昊白なり、揉めば細末となる、味初如甘にして稍苦し、又方言猿腰かけと雲木耳あり、形状之に相似たり、此物堅して肉i000000000049色なり、用に堪へず、榎等諸朽木に生ず、加羅松に生ずれども類之者あり、宜可否お弁ずべし、河内領雨畑村保(ほう)村辺にて、自古村民毎戸に儲て用薬とす、近頃白峯(しらね)の諸山にも采之、大槻が六物新志に、和蘭人雲、亜互里歌斯(あがりこす)〈即唵蒲里歌〉旅爾更(ろるけん)樹に附生すと、図解お載せたり、又追録雲、野作(えぞ)地生此木耳、樹二種、其一呼曰仍吾(しゆんぐ)、楨幹似縦而短、呼其木耳曰多〓矢(とぼし)、則所呼唐檜、又称蝦夷檜者、劈為杯棬者也、其一樹恰似五鬣松、木理迥異、且為巨材之用雲、夷言曰古伊(くい)、伝此樹者、呼古伊加爾矢(くいかるし)、又曰古斯里加爾矢(くすりかるし)、加爾矢、木耳也、按に図解に雲、旅耳更樹、及追録に所謂唐檜は、同木にして、本州に雲、加羅松の形状に符合せり、諸書五鬣松( /ごえうまつ)、落葉( /ふじまつ)、加羅松お相混じて不分弁ゆえ、互に得矢ありと見たり、加羅松は聳直して為巨材用、脂液多く堅〓、〓日遇雨露、能く久に堪ふ、其為用こと松に勝れり、其皮全似樅樹、色赤香あり、葉細長而稠密、枝末垂下せり、宛も鼠さしと雲樹葉に似て、五葉二葉にあらず、檜の類に近し、唐檜と雲も宜なるべし、松に類して其実似松毬( /まつかさ)、小にして如魚鱗紋お帯るのみ、真の旅爾更樹なりや否お知らず、