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広益国産考

松の実おとり蒔苗お仕立る事 松の実おとるは、肥て成長宜しくうるはしき松毬(まつかさ)〈西国関東にて松かさと雲、畿内辺にてちヽりといへり、〉おとりて、日にほしよくたヽき落し、紙袋やうのものにいれ、貯へおき、春二月にとり出し、右杉苗床の通り地ごしらへして、蒔やうも、囲ひ方、覆ひの仕方も、杉苗と同じやうに致し育なば、其秋弐三寸に伸べし、是は実お賞玩するものヽ苗とちがひ、雄苗(おなへ)お賞すれば伸、おそきは多分雌苗(めなへ)なれば、間引(まびき)すて、雄苗おそだつるやうにすべし、十月末にのこらずこき揚て、畑にうねお切、根おかさねならべ入、土お覆ひ、上に古俵にて覆ひおし、雪霜おいとふべし、苗床少しならば其まヽ置、上に藁にてざつと覆ひお致してよし、暖国ならばたとへ苗床広くとも、其まヽ置て小竹お伐て幾本も土にさしこみ、竹の葉にて苗お覆ふ様いたし置ば、寒気おいとふ也、 こき揚て囲ふたるも、其まヽ置て囲ふたるも、春二月に掘いだし、余り長き牛房根ははさみ捨、図のごとく〈◯図略〉畦おこしらへ、弐行に間八寸ほどおき植ならべ、十日もすぎて薄小便おかけ、根際に芥の腐りたるお入、夏の土用まへに厩肥やうのものお根ぎはによけて施し、草おとり根に鍬お入育つれば、秋の末には八寸あるひは壱尺にも伸べし、冬は其まヽ置てよし、又寒気つよく雪のふる所にては、木の根に藁おうすく置べし、春二三月比掘あげて、山にうつし植て宜し、今一年貯へおきうつしてもよし、