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松屋筆記
八十
松の名木 陸奥桑折宿(こおりの)に判官の腰掛松(○○○○○○)あり、身木の高さ一丈許にて、枝十五本四方に出、そのわたり四十五間あり、諸人其間おわけ入て枝にこしかけ、茶菓烟草お服用し、松のさまお賞観す、枝間こヽかしこに茶屋ありて、客お引こと実に奇絶の名木也、一の城戸、下紐の関などもこヽに並たり、さるに天保二三年の比にや、火に焼失たりといへるは、口おしきわざ也かし、同国南部盛岡より八九里北に雪浦村あり、そこにしだり松とて、めぐり一丈五六尺、高さ数十丈の松あり、枝こと〴〵くしだれて、行人の笠お払ふ、実に世の珍木也、志摩国鳥羽より一里ばかり東に波分(なみわけ)とて大樹あり、其形無双の奇観也、