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古事記伝

榲諸本椙と作、今は延佳本に依れり、抑古書どもに須疑に此字お用ひ、或は椙とも多く作り、書紀顕宗巻に振之神榲(ふるのかみすぎ)、榲此雲須疑と見え、出雲風土記に、杉字或作椙と見え、万葉などにも、杉椙ともに用ひたり、和名抄に杉和名須木、今按俗用榲字非也、榲柱也、見唐韻とあれど、漢籍にも集韻に榲音温、杉也と雲り、〈此は宋代の書なれども、古き拠ぞありけむ、さて榲お椙と作(か)くは、常のことなり、椙は榲お誤れるものなるべし、さて須疑は進木(すぎ)なり、此木かたはらへははびこらず、たヾに上へすヽみ上る木なればなり、直木(すぐき)とするはわろし、直(なほ)おすぐと雲こと古にあらず、〉