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宇治拾遺物語

これもいまはむかし、東大寺に恒例の大法会あり、花厳会とぞいふ、大仏殿のうちに高座おたてヽ、講師のぼりて堂のうしろよりかひけつやうにして逃ていづるなり、古老つたへていはく、御堂建立のはじめ鯖売翁きたる、〈◯中略〉鯖おうる翁杖おもちて鯖おになふ、其鯖の数八十則変じて八十花厳経となる、件の杖の木、大仏殿の内東回廊の前につきたつ、忽に枝葉おなす、これ白榛の木(○○○○)也、今伽藍のさかへおとろへんとするにしたがひて、この木さかへ枯といふ、