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大和本草
十果木
檳榔子 暹羅交止(しやむろかうち)の国俗に、客来れば先檳榔子お出し食せしむ、日本にて烟草お客に出すが如し、而後茶菓お出す、彼国南方にあり、檳榔は湿熱お去るが故也、本草に嶺南人当果食すといへり、嶺南は章州福州(ちやぐちうほくちう)など中華の内にて南土也、檳榔お食ふ法、石灰或蜆灰お用ふ、同咀へば不澀、銀錫お以香合の如く小合お作りて入て客に出すと、範石湖が桂海志にいへり、中華にも檳榔多し、日本には薩摩日向にありと雲、葉は椶櫚に似たり、伊豆の下田の百里おき無人島にも有之と雲、檳榔と大腹子(○○○)と、其樹相似て別なり、然れども通用すべし、但大腹子の力は檳榔子にすこしおとる、是時珍が説なり、