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重修本草綱目啓蒙
二十二夷果
檳榔 通名 一名椶然〈通雅〉 仁榔〈類書纂要〉 増、一名螺果、〈格致鏡原引呉普本草〉 檳榔〈方書〉 尖檳榔〈同上〉 和産なし、子は多く舶来あり、この木甚寒お畏る、熱地に非ざれば産せず、故に八閩広州に多し、時珍の説に、形状お説こと詳なれども、広東新語に猶尽せり、舶来に数品あり、形長じて尖る者は、鶏心檳榔(○○○○)にして真の檳榔なり、是に雌雄の分あり、又形大にして円く、扁き者は大腹檳榔(○○○○)にして即大腹子なり、薬家に檳榔となし売るは誤なり、又形狭して両頭尖り榧実の如き者あり、是梭身檳榔(○○○○)なり、檳榔は味澀く微しく甘し、大腹子は甘味なし、釈名の下に、交広人、凡貴勝族客、必先呈此果と雲は、本邦客来に茶煙盆お出と同じ、広州及南蛮にては、檳榔の生なるお果子とし、客あれば必出す、檳榔に扶留藤と瓦屋子灰とお加へ饗す、この三味お入る器お檳榔合と雲、桂海虞衡志に出、この器舶来あり、茶人珍賞す、大小あり、大なるは高さ一尺許広さも同じ、四角にして三重、小なる者は一器にして三隔あり、これお香合に用ひ、きんまでの香合と雲、皆朱漆にして黒漆の細画あり、又黒漆にして朱の細画なるもあり、扶留藤は芳草類蒟醤の一名なり、俗にきんまと呼ぶ、瓦屋子灰は蚶殻(あかヾひのから)の灰なり、きんまの葉に、この灰と檳榔とお包み食へば味甘し、故に果子とす、享保年中には、きんまの葉にて二物お包み、蜜漬にしたる者渡る、今も希に薬四に貯る者あり、きんま真物は和産なし、今花戸にふうとうかづらと呼ぶ者、この下品にして漢名土蔞藤なり、