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重修本草綱目啓蒙
二十二夷果
椰子 通名 やしほ とうよしのみ〈津軽〉 一名酒樹〈潜確類書〉 矮胡〈名物法言〉 〓〓〈事物異名〉 歌具〈東西洋考呂宋の名〉和産なし、熱国の産なり、実は四辺の海浜に漂流し来る、故に四国但州佐州奥州若州等の地に間あり、木は形椶櫚の如にして大なり、枝なく直聳すること五六丈、葉は其梢に簇生し、花お開き実お結ぶ、花は千葉蓮花の如く白色と、広東新語にその形状お詳にす、曰く、葉間生実如狐繫、房房連累、一房二十七八実、或三十実、大者如斗、有皮厚包之、曰椰衣、皮中有〓甚堅、与膚肉皆緊著皮、厚可半寸、白如雪、味脆而甘、膚中空虚、又有清漿、升許、味美於密微、有酒気曰椰酒、蘇軾詩、美酒生林不待儀、言椰子中有自然之酒、不待儀狄而作也と、又曰く、椰心色白而甘、在酒中大小不一、宜以檳榔兼嚼之と、今四辺に漂著する者、形桃実の如にして頭尖り、長さ八九寸、径り五六寸、或は三四寸、又三稜なるもあり、これ三十実も簇り生ずる者故、形定まらざるなり、外皮は黒褐色にして薄し、此内に二寸許厚く包める皮あり、大腹皮の如にして長し、是広東新語の椰衣にして椰子皮なり、此内に〓あり、大さ三寸許、甚堅して厚さ二三分、形円く一頭尖り、三孔ありて人面の如し、故に釈名に越王頭と雲、此〓お鋸開すれば内に肉あり、厚さ四五分にして白色、是椰子瓤なり、其中は空虚にして清水あり、これお椰酒と雲、これ椰子漿なり、其中に桃実の形ちの如き白肉あり、是椰心なり、この〓お磨く時は、黒質白紋にして椶竹(しゆろちく)の如く美し、唐山にては酒盃に作る、宗奭の説に、如酒中有毒則酒沸起或裂破、今人漆其裏、即失用椰子之意也と雲、時珍の説に横破之可作壺爵、縦破之可作瓢杓也と雲、本邦にても縦に破りて掬水(みづのみ)及盃とす、然れども泥金或は朱漆にて内お塗たるもの多し、皆本意お失するなり、椰子油蛮流外科に用ゆ、おーりよからつぶすと雲、此は〓中の白肉お煎じとる油なり、一種うみやしほ、亦漂流の者なり、形小く長さ二寸許、径一寸余、外皮は椰子と同じ、内に堅き仁ありて空虚なし、仁おけづりて薬とす、是亦椰子の一種なり、