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重修本草綱目啓蒙
二十二味
胡椒 通名 えのみごしやう〈東国〉 一名胡辛〈事物異名〉 木叔〈輟耕録〉 昧履〈食物本草〉 楜椒〈品字揃俗字〉 和産なし(○○○○)、紅毛より舶来す、唐山にも急蘭丹大泥錫蘭(たにせいろん)山満剌加瓜哇真臘暹(まれいじやがたらかぼちやしやむろ)羅三仏斉より来ると、広東新語に雲り、其実円にして梧桐子より小く、色黒して皺あり、蛮国にて生ずる者は色青く、蒸熟晒乾即成黒色と、朱氏雑記に雲り、本邦へ来る者は皆蒸たる者故、下種して生ぜず、皮中に堅〓あり、内に白仁あり、味辛して香気あり、是蔓草の実にして木類に非ざること、時珍の説に詳なり、紅毛の図お見るに、土蔞藤(ふうとうかづら)葉に能似たり、今花戸にてこしやうの木(○○○○○○)と雲あり、小木にして葉は瑞香の葉に異ならず、春枝梢に四弁の白花お開く、形亦瑞香花に同じ、後円実お結ぶ、初青く熟して赤し、味辛けれども胡椒の味と同からずして毒あり、曝乾すれば皮に皺ありて胡椒に似たり、故に誤て胡椒の木と雲、是白瑞香(○○○)なり、又一種甲州にておにしばり(○○○○○)と呼ぶ者あり、是も花戸に誤て胡椒の木と呼ぶ、葉は瑞香に以て薄く色淡し、春四弁の黄花お開き、後円実お結ぶ、夏月熟して色赤し、故に越後にてなつぼうずと呼ぶ、胡椒の類に非ず、今花戸にふうとうかづら(○○○○○○○)お誤て胡椒と雲、これは土蔞藤にして蒟〓(きんま)の一種下品なり、この実は椒目の大にして皮の色赤く、内に堅き〓あり、其仁辛味なし、香気は〓〓似に似たり、決して胡椒に非ず、舶来に色白き胡椒あり、皮お去たる者の如く見ゆれども、別に一種なり、通雅に玉椒と雲ひ、朱氏雑記に白椒と雲ふ、蛮語ういつてぺーぷる、ういつては白色なり、常の胡椒おすわるとぺーぷると雲、すわるとは黒色なり、寒中に胡椒水にて墨おすれば凍らずと、本経逢原に見へたり、曰厳冬泡水磨墨則硯不氷、勝於皂水火酒、傷筆易禿也、