[p.0165][p.0166]
古事記伝

波々迦、今本はみな婆々迦と作(かヽ)れども、言の首お濁る例なければ、必波字なるべし、故今は旧事紀に波々と作るに従つ、〈此余にも波と婆とは、互に写し誤れる所多し、後世平仮字の書どもには、多く波和加と書り、此も口にはさもよむべし、〉和名抄に、朱桜波々加、一雲邇波佐久良、又木具部に、樺木皮名可以為〓炬者也、和名加波、又雲加仁波、今桜皮有之と見え、万葉六〈十八丁〉に、桜皮纏作流舟(かにばまきつくれるふね)とよみ、古今集物名に、迦爾婆桜あり、〈源氏物語などに、加婆桜といふもこれなり、〉これらお合て思に、此木の本名は波々迦にて、迦爾婆は皮名なり、〈加婆は、加爾婆の約りたるなり、〉さて皮お専ら用るから迦爾婆桜と木の名にもなれるなり、かヽれば和名抄に、邇波佐久良とあるは、今本加字の脱たること著し、〈古今集かにばざくらの註に、朱桜とかけりと、顕昭が雲るよくかなへり、然るお契沖が和名抄お引て、これお誤なりと雲るは、返てひがことなり、〉さて此に此木お取は、皮お燃して彼鹿の肩骨お灼(やか)む料なり、 ◯按ずるに、朱桜お神占に用いる事は、神祇部太占篇亀甲篇に載す、