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古今要覧稿
草木
はりの木 〈榿〉 はりの木、今処々に多く栽て薪となす、此木生長の早きによりて、田畑路傍ともにあり、直立にして繁茂す、又一種やしやふし(○○○○○)も、はりの同類にして、葉円大にして実も又大なり、此実染家に用ゆ、花は共に秋より生じて、開くは厳冬より立春盛なり、はりの木お榿となし、詩お引て証とし、其形状摸様ともに詳なる事は、大和本草お始とす、又蘭山は古今注の赤楊なりといへり、其文に霜降葉赤とあるに、少し的当し難し、猶風土によりての違ひあるべし、楓は紅葉の最なるものなれ共、本邦にては大樹に至りても、黄色に染るのみ、予秋にいたれば種々の霜葉おあつめ見れども、未だはりの木の紅葉お見ず、ほりえの浜つとに、水の秋や深くあるらん陰しづむ岸のはりはら紅葉しにけり、と浜臣のよみしもあれば、いやましにはりの霜葉お尋ぬれど、今に見ず、或人榎戸の鷲大明神へ行道にて、はんの木の麗はしく染しお見しといへり、されば十一月の事にて、何れの紅葉もちりし後なり、是は元木おきりて新枝の生ぜしものなるべし、やしやふしは近辺にては鴻台辺より多く植るもの也、是は田のはたには植ざるものにて、多く山野にあり、又八王子辺多く自生ありと雲り、又日光にてふし(○○)と雲ものは、葉細く桃葉に似て細鋸歯あり、此実にて婦人歯お染といふ、又めはりの木(○○○○○)と雲は、やしやふしに似て、小にして先くぼめり、是はやしやふしより葉厚くしてこはし、此二種共にやしやふしはりの木の実も用て佳なり、やしふやしは元来本邦に生ぜしものなるべし、又佐藤成祐曰、古渡りの大黄に穿眼大黄と呼ものあり、薬舗にてうがち大黄と呼、即はんの木にて差て渡せり、切て見れば大黄の内に枝のこりあるものありと雲へり、是にてもはりの木の西土に多くある事はしられたり、