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重修本草綱目啓蒙
二十一五果
栗 くり〈和名抄、皮色黒し故に名く、〉 一名〓実〈事物異名〉 女水霜苞 天台道果 華林異果〈共同上〉 河東飯〈清異録〉 君州果〈名物法言〉 嘉卉果〈同上〉 員栗〈尺牘双魚〉 咽玉漿〈事物紺珠〉 吃栗〈説嵩〉 増一名撰之〈礼記〉 茅栗一名芫子〈崔禹錫食経〉凡そ栗は冬葉枯れ春新葉お生じ、梅雨中に至て葉間に花あり、穂おなす、長さ三寸許、至小の黄白色なる者多く著て下垂す、山胡桃の花より短小なり、後房彙(いが)お生ず、形円扁にして刺あり、季秋に至り房彙自ら裂て出て落る者お上品とす、房彙お開て採り出したるは蛀つき易し、房彙の内子二顆あるあり、三顆あるあり、三顆の者は其中子多は皮のみにして肉なし、これお栗楔と雲、俗に栗のしやくしと呼ぶ、一名くりのおば、せなかあて、〈加州〉肉ある者は薬用とし、又下種に宜しと雲、又房彙中に惟一顆あるあり、一つぐりと雲、一名ひよんぐり〈雲州〉どんぐり、〈同上、同名あり、〉ひやうひやうぐり、〈江戸〉ひよひよぐり、〈同上〉其形正円なり、薬用に入る、附方に独顆栗子独殻大栗と雲、江州に一毬に七顆あるあり、はこぐりと雲、毬の形四稜にして闊し、栗の形至て大なるお丹波ぐりと雲、一名料理ぐり、おほぐり、てヽうちぐり、てヽうちぐりに数説あり、一はてんでに採ると雲意と雲、一はにぎりて手中に満るの意にて、手内栗(てヽうちぐり)と名くと雲、ふ、此は丹波の名産にして、柏原侯より献上あり、一は時珍の説、其苞自裂而子堕の意お取りて出(で)て落ぐりと名くと雲、丹波ぐりは形大にして料理に用ゆるに堪たれども、味は劣れり、是れ板栗なり、一名魁栗、〈山東通志〉又七八分の大さなるお中ぐりと雲、是山栗なり、又しばぐりあり、一名ささぐり、〈和名抄〉ぬかぐり、もみぢぐり、木高さ五六尺に過ずして叢生す、房彙も小なり、其中に一顆或は二三顆あり、形小なれども味優れり、是茅栗也、一名〓、〈通雅〉円椐栗、〈同上〉糠栗、〈鎮江府志〉又越後には三度ぐりあり、大和本草にやまぐりと雲、石州にてかんはらぐりと雲、茅栗の類にして、年中に三度実のると雲、越後のみならず、石州、予州、土州、上野、下野にもありと雲、