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草木六部耕種法
十九需実
栗も亦桃と同く、実お結こと速なる者なり、此物は実植の儘にて成長せしむるも宜く、苗小きときに移し栽たるも宜く、又実小者は伐りて砧と為し、大栗の枝お接たるも宜く、或山野に自然生の柴栗お移し栽て、接木したるも亦宜し、何れ栽たるも接たるも二三年お経るときは、必実結者なり、若実お結ざるおば、下枝も梢も六七分許、断捨て置くときは、新に梢も枝も生じて、必能く実の結者なり、 種子お植法は、大栗の三子なる中子お撰集めて、木より落たるお風に当ず藁葉に包み、此お熱土の中に埋め、土お覆ふこと一尺四五寸、上に藁菰の類お二三枚も被て養置き、翌年の春分後に至るときは、少しく芽お出す者なり、乃ち其実の尖たる方お下にして、深さ三寸弱に植付べし、若し遠国より種子お取寄るときは、桶箱等の中に軟沙お以て活て持運べし、厳しく風日に当ることお嫌ふ、抑栗木は実は勿論成長したる木と雖ども、禹角人の手風お嫌ふ者にて、能く実の結る大木も、数々人の手お以て撫摩ときは、実お結ざるに至ると雲ふ、 植地は砂錯の壌土お好む、赤色の壌土は殊に宜し、栗は寒国の雪積る土地にも能く豊熟する者なれども、南向の陽気なる処に応合し、陰地には適合せず、北向の肥地に栽たるは、一旦繁栄すること有りと雖ども、久しからずして虫お生じ、皆必倒るに至る、丹波国は大概赤壌赤櫨多く、大栗古今名産なり、然れども一盛能く実結て木に虫お生じ幹中お喰透、衰弱て実お結ばざること多し、故に虫お殺す法有り、即十月中旬頃に、枯草お以て厚く栗樹の幹お包み、下にも頗木葉お聚て火お放ち、此お焼く、此の如くするときは、火煙虫穴に入り、腐朽たるも焼焦れて虫は悉く死し、其木却て稚復り、能く実結者なり、栗の虫お去るは此法最も便なり、