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広益国産考

栗丸太(くりまるた) 国々にて杉檜松槻等の材は多く仕立れども、栗材お出す事少きやう覚ゆる也、此栗材すくなきゆえ、杉丸太、松丸太抔多く用ふる也、雨かヽり或は溝などに栗お用ひなば、つよくたもつ事、杉松よりも強かるべしと思ふ計にてぞ過しける、江戸抔にては、別て屋敷方の板塀溝などお見るに、杉丸太お打貫き伏、塀の扣柱に杉松など見及べり、是は栗材すくなく高直なるゆえなるべし、江戸にては諸侯方の御下屋敷抔には、雑物ばかりお作付ありし所見及ぶ事多し、其時々に斯る所にこそ、杉と栗材お仕立給はヾ、諸屋敷の溝々計にても栗丸太お用ひ給はヾ、如何計の御費お省給ひなんと、人にも語りし事あり、又或下屋敷に参りし事ありて見及び侍るに、多く南瓜(ほうふら)〈西国にてぼうぶら、上方にてなんきん、江戸にてたうなす、或国にてはかぼちやといへり、〉などお作り、皆百姓に任せ置給へり、是等には杉と栗檜などつくり給はヾ、材木お貯置給ふ道理にて、急用の時伐用ひ給はヾ、如何計の御徳用ならんと思へり、〈◯下略〉