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大和本草
十二雑木
櫟(いちひ) 時珍雲、有二種、一種、不結実者、其名曰棫、一種結実者、其名曰栩、其実為橡、其葉如櫧葉而文理皆斜勾、四五月開花、如栗花黄色、結実如茘枝〓而有尖、其〓有斗、包其半截、其仁如老蓮肉、山人倹歳采以為飯、今案いちひの木は櫧に似て同類異物なり、葉はかしの葉に似て、白かしより薄く大なり、其木二三丈実も櫧に似たり、実お橡実と雲、凶年に飢お助く、皆本草所言の如し、木は用て器に作り、屋材とする事櫧に同じ、舟の櫓お作るに多くは用之、順和名櫟子和名以知比、大於椎子者也、時珍雲、櫟柞木也、実名橡斗と、順和名はヽそ、今案はヽそかしはもかしの木の類なり、はヽそといちひと同物乎未詳、奈良の西北祝(はふりの)園にはヽその森あり、方書に鑿子木(いぬつげ)おも柞(さく)と雲は非なるよし本草にいへり、橡実はいちひの実なり、とちと訓ずるは非也、檞(くぬぎ)、櫧(かし)、櫟橡此(いちひいちひのみ)四字お分弁すべし、世俗往々為難弁、誤称者多矣、檞(くぬぎ)は別物なり、櫧と一類に非ず、櫧とまてばしいと櫟と、此三物は一類なり、橡は櫟の実なり、柡(さく)の木おも一位の木と雲前に記せり、同名異物なり、笏に作るもの也、櫟と別物なり、