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農業全書
七四木
桑 桑は四木の一つにて取分貴き物なり、凡て人世の重き物は衣食に過る事なし、しかれば五穀に次て必うゆべき物なり、古は人家ごとにやしき廻りに桑うへて、応じ〳〵に糸綿お取て、衣服の儲としたりと見えたり、殊に一度うへおきては、女功ばかりにて、農事の妨ともさのみはならず、草木こそ多き中に、青葉より糸綿の出る事、実に奇妙な霊木なり、近来木綿お広く作りて、其しるし速かにして、下賤のために便りよきお専らとして、名所の外は桑のしたて疏かになりたると見えたり、されど木綿も又土地所によりて、おしなべて作る物にあらず、山中雨霧のふかき所、其外作りて利なき所多し、