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重修本草綱目啓蒙
二十二夷果
波羅蜜 一名刀生果〈広東新語〉 婆羅樹 優鉢雲〈共同上〉 無花果〈正字通同名あり〉嶺南及海南の国にあり、広東新語に詳なり、曰く生五六年至径尺、削去其秒、以銀鍼釘腰即結実、其実不以花成、実乃花、然常不作花、故仏氏以優鉢曇花為難得、毎樹多至数十実、自根而幹、而枝条皆有実、累累疣贅、若不実則以刀斫樹皮、有白乳湧出、凝而不流則実、一斫一実、十斫十実、故一名刀生果、其以乳而実者乳血也、猶人以母之血孕育而成〓形也、其根或行傍舎則実潜結地中、熟而地裂、聞香始知、較枝幹所生者猶美、此所謂無花之果也と、又曰、波羅熟以盛夏大如斗、重至三四十斤と、此実至て甘味なり、花暦百詠に、梵語謂至甘為波羅蜜と雲り、 増、波羅蜜はがつまる(○○○○)なるべし、即広東新語に波羅樹と雲是なり、がつまるは今種樹家に伝へ栽ゆ、葉の形山茶(つばきの)葉に似て、鋸歯なく厚く、深緑色にして光沢あり互生す、冬も落葉せず、夏月葉間に茎に附て花なくして実お結ぶ、その形天仙果(いぬびは)の如し、暖国の産ゆへ甚寒気お畏る、故に本邦にては才に盆種するのみ、希に実お結ぶと雖ども、小くして形色臭味、共に全く具はらず、冬月土窖(むろ)の中に蔵せざれば育し難し、然れども春夏の間〓挿にすれば能く活す、元来此樹甚大木にして榕(あこう)の類なり、広東新語に、榕樹大十囲、又雲枝柯長至数丈、又桄榔長五六丈、蒲桃高二三丈と雲へども、本邦にては此類悉く盆種に過ぎず、類推してがつまるの大木なるお知べし、然るに波羅蜜お、広東新語には重至三四十斤と雲、時珍は顆重五六斤と雲、且つ文に異同あり、参錯してその要お察すべし、凡そ草木花有て後実お結ぶ、是天地の常理なり、故に花なくして実お結ぶ者は、数種あるべきものに非ず、又蘭山翁引く所の広東新語の文は甚略文なり、その生五六年の上に、波羅樹即仏氏所称、波羅蜜亦曰優鉢曇、高三四丈、葉如頻婆而光潤の二十七字お補ふべし、無花之果也の下に、広南無花之果、若古度子、若獼猴桃、若楊揺子、凡有三四種、以波羅蜜為大、蓋果之胎生者の三十五字お補ふべし、然れども全文にはあらず、又こヽに、広東新語お引て、波羅樹お婆羅樹に作るは誤なり、 一種あこう(○○○)と呼ものあり、あこぎとも雲、暖国に自生あり、葉の形冬青に似て闊大にして厚く欠刻なし、夏月枝間に花なくして実お結ぶ、大さ無患子(むくろじ)の如くして内に細子あり、枝上に根お生じ、下垂して土中に入る、これ広東新語の榕なり、この樹甚寒気お畏る、然れども〓して能く活す、倒に挿すも亦活す、故に広東新語に、以枝為根、復以根為枝、一名倒生樹と雲、阿州小松島浦弁天山に多し、