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草木育種後編
下花卉盆玩并に服器に用あるもの
榕樹(ようじゆ)〈南方草木状〉 俗にあこう(○○○)〈薩州方言〉枕香木(○○○)〈江戸花戸〉ともいふ、和蘭にていんでやんすへーけぼーむ( /印度亜 無花果の義)、又うおるとるぼーむ( /根樹の義)、薩州より来る大樹なれど、江戸にては盆玩にするのみ、夏より秋まで茎幹へ三度計り実お生ず、形ち天仙果(ひめいちじゆく)に似たり、夏の初より暑中迄に、枝お管にきり挿(さ)してよし、中のひなたにてよし、葉お生じかたまりて、糞汁お澆ぐべし、冬は窖に入てよし、一種琉球にてかずまるといふものあり、葉女貞(もち)に似て光沢あり、実葉の間結ぶ事あこうに異なりとす、暖国にて枝間より根お下垂し、又幹となるといふ、冬日暖窖に入てよし、暑月枝お管にきり挿して活す、魚腥水豆肥糞水度々澆ぎて生長し易し、薩州大しまより来る砂糖の樽に此材あり、用て器に製して頗る雅なり、二種皆花なくして実お結ぶ、無花果の一種なり、 喜住〈◯阿部〉按に、榕樹即仏家にいふ菩提樹にして一名貝多羅なり、慈恩伝雲、菩提樹即畢鉢羅樹也、法顕伝曰、貝多樹下、是過去当来諸仏成道処、華厳探玄記曰、畢鉢羅樹此曰榕樹、在嶺南、亦有此類、又菩提樹といふ、八紘訳史曰、菩薩樹不花而実、人不可食、其枝下垂附地、生根若柱、歳久結成巨材、人蔭其下無異屋宇、至有容千人者、以為仏宇、又多羅樹あり、即椰子の類にて、葉お写経の料に充るもの也、又貝多羅花ありて、読修台湾府志に見ゆ、ともに別物也、〈予〉本草講義に訳す、故にここに略す、