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閑窓瑣談

櫁(しさみ)の功能 世の人櫁の枝葉は仏事にのみ用ゆるものにて、忌々しき様に、嫌ふて不吉の物とす、大ひなる心得たがへなるべし、櫁は昔歌にもよまれたり、万葉集に、曾根の好忠 愛宕山櫁が原は雪つもり花つむ人の跡だにもなし、櫁は愛宕の名木なり、亦櫁は、其香清浄にて、神仏に備へ、不浄お除く、墓原に櫁おさし置ば、獣怖れて墓おあばき人の尸お破る事あたはず、夫故に墓所に備へ獣お除く用心とす、山近き田畑にて猪猿の類が畑物お取ざる様に、多く櫁お植、又は掘て置、芋などに櫁の枝お折て蓋とし置ば、獣来りて取事能はずといふ、猶功能多し、眼病の熱お醒すには、墓所の水に落て腐たる櫁の露お眼に付れば、忽ち平愈す、櫁の葉お煎じ用ひてもよし、