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紀伊続風土記
物産六下
加都良(かつら)〈古事記、万葉集かつらのき、新撰字鏡楿、書紀に杜の字お用ひ、本草和名に楓の字お用ふ、並に非なり、又和名抄桂お女加豆加良、楓お乎加豆良と訓じ、雌雄に分ちしはうけがたし、葉は白楊に似て薄く、縦道ありて、辺に鋸歯あり、葉の茎長し、三四日葉間に豆花の如き花お開き、後に角お結ぶ、秋に至り葉色黄に変ず、〉矣婁郡山中所々に産す、又那賀郡麻生津荘西脇村の桂谷は、此樹お産するおもて名づく、此谷二に分れ、其間二町許、西の谷にあるお雄かづらといふ、古は大樹なりしが、枯れて、今あるものは一窠三株にして、三株合して周五丈余もあり、東の谷にあるお雌かづらといふ、これも今三株にして、合して周三丈余あり、皆末にて数十幹に分る、土人いふ、此木お採り帰る者は、己が家火災ありとて、枯枝落葉も採るものなし、故に天年お保ちて、此の如く大樹となるといふ、加茂葵祭に用ふるもの是なり、