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本草弁疑
四木
桂 今薬舗に四種あり、肉桂、官桂、東京肉桂、桂心なり、桂枝に二品あり、隻の桂枝とわら桂枝となり、是官桂と一種也、 東京と雲は最上なり、味甚辛甘、長尺許ありて細く裁て木皮にてつなぎたる者也、悉く味良、次は肉桂なり、又尺桂共雲ふ、味能けれ共、半分は古くなりて不辛、 官桂と雲は、麁皮薄く細く巻て竹に似たり、味辛く舌滑かなる者、肉桂とは別種の者なり、是お官桂と名くることは、薬舗の誤りなり、本名に非ず、元官桂と雲は、上等供官の桂とて、天子の倉に納る上上の桂なり、然るお書に官桂とある故に、庸医別物と心得て、薬家に尋求む、薬家も又不知之、形味のかはりたる故に、これお仮名けて官桂とす、正之人亦なき故に、弥偽りが真となりて、通じて官桂となる也、わら桂枝は此の官桂の枝お打ひしぎたる者なり、味も粘も同ことなり、常の桂枝は肉桂の枝の皮なり、 桂心と雲者は和物にして、松浦(まつら)桂心と雲者なり、真の桂心にあらざれども、是も庸医外の物と心得て薬舗に求む、薬舗又不知之して、偽誤て桂心に充つ、如斯の類甚多し、蘇容曰、旧説菌桂正円如竹、有二三重者、則今の筒桂也、〈私雲、是和雲官桂者、〉牡(ぼ)桂皮薄色黄少脂肉者、則今之官桂也、桂是半巻多脂者、則今之板桂也、 時珍曰、桂有数種、如今参訪牡桂葉長如枇杷葉、堅〓有毛及鋸歯、其花白色、其皮多脂、〈私雲、是今所渡之通用肉桂也、〉菌桂葉如柿葉、而尖狭光浄有三縦文、而無鋸歯、其花有黄有白、其皮薄而巻、今商人所貨、皆此二桂、但以巻者為菌桂、〈是和俗曰官桂〉半巻及板者為牡桂、〈通用肉桂也、容説少異、〉即自明白、 弘景曰、経雲、桂葉如柏葉、沢黒皮黄心赤、時珍曰、柏葉之桂乃服食家所雲、非此治病之桂也、 以上、菌桂牡桂柏葉桂あり、容は筒桂肉桂桂心官桂板桂の名お挙、 考筒桂は和に雲、官桂嚙んで舌滑なる者也、肉桂桂心官桂は一樹也、板桂と雲は和の松浦桂心なるべし、〈未知木様、故難決、〉 菌桂お官桂に用ことなかれ、主能異なり、隻肉桂の味能者お可用、桂心に松浦桂心お用ことなかれ、味なくして隻香気許り似たる者也、 時珍曰、桂此即肉桂也、厚而辛烈、去粗皮用、其去内外皮者即為桂心、 雷公曰、去上粗皮并内薄皮、取心中味辛者用、 二公の所説誤り也、諸桂皆内の薄皮一片許、辛して心中も麁皮も味なき者なり、是隻心の字に心お付て、内外お去て中お取と雲ふ、此心は木理に近きお雲也、此誤りお承て修治纂要にも、内外の皮お去と雲なり、 蒙筌雲、近木黄肉、但去外甲錯麁皮、 集要刮去麁厚近裏者為桂心 此説可なり、木に近処の内の方の甚辛お桂心として可用、松浦桂心は用ることなかれ、大に誤り也、但日本にて配合したる方に、桂心肉桂双べ用ることあり、それには松浦桂心お可用、本朝誤り来しこと年既に尚し、松浦桂にてくみ合たる方なれば也、唐書の方には必肉桂の辛お択で、内の薄皮一片お可用、松浦お用ることなかれ、 桂枝はわら桂枝と雲者お用ることなかれ、別種にして真に非ず、疑くは菌桂の枝なるべし、薬家に官桂と雲者なり、唯常の肉桂の中に、枝の皮と雲べき者あり、是れ真なり、 尺桂官桂肉桂桂心薄桂、皆一種にして、肉桂の辛甘一木の上にて数名あるなり、日本に肉桂の木と雲者所々に有之、葉はしきみに似て、桂の香も味も少しある者なり、松浦と同種なりや未見松浦樹、故に難決、 薬性賦註解曰、其在下最厚者曰肉桂、〈在下有入腎之理、属火、有入発之義、〉去其麁皮為桂心、〈入心肺脾腎四経〉其在中次厚者曰官桂、〈入肝脾二経〉其在上薄者曰薄桂、〈在上而肺胃亦居上、故宜入之、〉其在嫩枝四発者曰桂枝、〈四発有発散之義、且気味倶軽主表、〉 此註最可也、肉桂官桂薄桂桂枝桂心、於一樹之上有異名、主能亦各別、如今倭薬舗以別種者名之非也、