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重修本草綱目啓蒙
二十三香木
桂 牡桂 につけいのき 一名尉陀生〈薬譜〉 尉佗圭〈輟耕録〉 咄者〈金光明経〉桂の字お和名抄にめがつらと訓ず、かつらと訓ずるは、桂の字の古訓なり、今城州加茂祭に用らるヽ所のかつらのきとは別なり、これは古名おがつらにして、漢名詳ならず、桂古は東京お上品とす、其味甚辛甘にして香気烈し、長さ一尺許、細くわりて木皮にてつなげり、故にとまき肉桂と呼ぶ、この品今絶てなし、交止の肉桂は辛味多けれども子ばりあり、故に古は上品とせず、東京の次とす、今薬舗に東京と呼ぶ者は皆下品にして、本経逢原に謂ゆる板桂なるべし、今は上品の東京なき故、交止お上品とす、然れども交止の真物久しく渡らず、古渡も甚希なり、故に今薬舗に広南の内より味辛き者お撰び出して、交止と名け売る、其肉桂折桂枝、扁(ひら)桂枝、草(わら)桂枝等と名くる者も、皆広南中より撰び分つ者あり、又紅毛肉桂あり、形狭くして長さ二三尺、粗皮なくして赭黄色、厚き者は味辛く、薄き者は味淡し、他桂の味と相反す、この者上品なれども今少し、新渡の桂は皆皮厚して、味淡しく下品なり、方書に肉桂桂心官桂桂枝等の名あり、〈◯中略〉当に本草〓の説に従ひ、桂枝と柳桂とお分つべし、其柳桂は草桂枝なり、享保年中南京種来り、今諸州官園に甚多く繁茂す、この種京師花戸にも多し、葉形細長にして三縦道葉の末まで通りたるお上とす、下品の者は葉の末に枝筋ありて三縦道通らず、其木四時新葉お生じて繁茂し易し、この皮香気はあれども、辛味少して澀味お帯ぶ、桂は熱地の産にして、東京交止皆南方なり、嶺南桂州はこの木あるに因て名く、移して嶺北に栽ゆれば、気味殊に辛辣少し、薬に入るに堪へずと、容の説に雲り、漢種お本邦に栽て、味の変ずること宜なり、九州四国には和産の桂あり、其形状香味皆漢種に同じ、今天竺桂の根皮お采り売る者あり、香味共に良なり、然れども本草に根皮お用ゆること見へず、 増、凡そ桂お択ぶに、その産に拘らず、紫色にして辛甘、これお嚙で粘気なき者お上品とす、又皮厚き者は味薄く、皮薄き者は味辛し、故に扁(ひら)様或は草様(わらで)の二品お用ゆべし、然るに扁桂枝は舶来の桂枝中より択び出せども、草桂枝は元来薩摩産物と称したる者にして、天保の末より四中に出さず、故に今わらでと呼ものは、舶来中の細長きものお択たるなり、又天保十年のころより、形色共に上品の桂枝に同くして、弁別し難きものお多く混入す、其味澀し、これ天竺桂(だものき)の皮なり、 箘桂 交止の肉桂なり、皆枝皮にして薄く、二三重巻く者なり、故に巻肉桂と雲、味甚辛し、わり交止と呼ぶ者は大さ五分許、二つわりにして内に脂あり、今は真の東京なし、故に交止お上品とすれども、此品も久しく渡らず、古渡は甚希なり、故に薬舗に広南の内形相似て辛味ある者お撰び出して、交止肉桂と名け売る、古は薬舗に巻肉桂お誤て官桂と雲、本経逢原に筒桂俗名官桂と雲の誤りに因るなり、別に草(わら)肉桂と呼ぶあり、交止のくずなり、今は広南の中より撰び出す、 集解、時珍の説に、叢生巌嶺間謂之巌桂、俗呼為木犀と雲は、今庭際に栽ゆる所の木犀なり、俗名だも〈天竺桂と同名〉とも雲、唐山にて詩に詠ずる桂花にして、薬用の桂の類に非ず、葉は木蓮(いたび)に似て堅く細鋸歯あり、冬凋まず、秋に至て葉間に小花お開く色白し、又黄赤色の者あり、其香遠く聞て瑞香(の)花の如し、唐山には数品あり、春花さく者お春桂〈物理小識〉と雲、四季花さく者お四季桂〈秘伝花鏡〉と雲、毎月花さく者お月桂〈同上〉と雲、又紅花の者お丹桂〈女南甫史〉と雲、一名紅桂、〈同上〉巌柱一名花仙〈事物異名〉仙客〈典籍便覧〉 仙友〈同上〉山友〈事物紺珠〉 天闕清香 巌山圭木〈同上〉 状元花〈名物法言〉 天香〈尺〓双魚〉 七里香〈閩書〉 鳳尾〈共同上〉 九里香〈女南甫史〉 金粟〈品字揃〉 檜花〈通識〉