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広益国産考

肉桂お仕立る事 肉桂お仕立るには、先実の生お調、一粒づヽ実おむくべし、指にてむきては爪はれ痛めば、木綿切につヽみてむくべし、扠先砂真土(まつち)の肥地お畦(うね)つくりして、綿より少しうすく蒔べし、蒔肥しは綿と同様にてよし、弐寸計り生出たる時、根お弐寸程よけて油糟お粉にして施べし、三寸にも伸なばしげりたる処は間引、別畑に間二寸程置、植かへ日覆すべし、然して土用前に干鰯(ほしか)か綿実かすにても施べし、然すれば十月頃には七八寸一尺にも伸べし、霜月始頃みなこぎあげ、別畑に畦おつくり、斜にしげく植て霜覆ひおすべし、 春三月上旬にこきあげ、畦に二行に間四五寸置植て、初年の通りに肥しお施し育れば、三四尺に伸べし、其年暖国ならば、上に霜覆するにおよばず、寒国ならば初年の通り覆ひおすべし、然して翌春本植すべし、 植場所は遠方にすべからず、我家に近き所の薮抔起して植れば成長早し、幾年も置ものなれば、随分不毛の地お開きて植べし、 植る地面は、一円に畑のごとくならして、一間半程間置植べし、木の成長せざるうちは、いろいろのものは作れども、植たる木の根は四尺四方には何にても作るべからず、作れば必其木成長せずしてかじけるもの也、 本植して、肥しは余り行届かぬものなれども、年々ごもくやうのものお根に入、又厩ごえ埋れば生立よろし、是お掘事は、七八年十年位にて根よりほり、楊枝お伐、皮おむき桂枝とし、木の皮は肉桂とし、根皮は取分薬種屋に売べし、七八年目に木の根の片側半分土お掘、根お伐とり、薬種屋へ売、又三年も立て片側半分取て売よし、聞及べり、随分此肉桂は作りて大利お得たるよし承りぬ、併し御年貢のかろき地の穀物の出来ざる地に作るべきものなるべし、