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松屋叢考

三樹考〈◯中略〉 櫺(おかだまのき)古今の物名に友則 みよしのヽ吉野の滝にうかび出るあわおか玉のきゆとみゆらん〈友則家集にも載て異同あり〉同墨滅歌に、勝臣、 かけりてもなにおかたまのきてもみんからはほのほとなりにしものお、などよみて、俗に多万乃木(たまのき)とよぶ、古今栄雅抄〈十の巻〉に、櫺の字お書れしも、霊木の合字なり、漢名は丹陽木〈酉陽雑俎〉とも、天竺桂〈本草綱目〉とも、山桂〈同上〉とも、大樹繁花〈同上〉とも、月桂〈同上〉ともいふ、舶来の肉桂よりも下品、楠にも似たれど、それよりは上品なり、薮肉桂(やぶにつけい)、松浦肉桂、仏多良之(ほとけたらし)、油柴、米牟止宇太母(めむどうだも)、油太母(あぶらだも)、陀万(だま)、陀母(だも)、多夫(たぶ)、久須多夫(くすたぶ)、多菩(たぼ)、久須陀母(くすだも)、玉久左(たまくさ)、玉我良(たまがら)、加良陀母(からだも)、久須米牟止宇(くすめむどう)、古我乃木(こがのき)、安左加比(あさかひ)、阿左陀(あさだ)、黒阿左太(くろあさだ)、牟図(むづ)、黒都豆乃木(くろつヾのき)、塩陀万(しほだま)、黒陀万(くろだま)、古我比乃木(こがひのき)、多都乃木(たつのき)、都豆乃木(つヾのき)、波奈我(はなが)、油盗乃木(あぶらぬすびとのき)など、所によりてさま〴〵に称よし、大倭本草〈十二の巻〉物類称呼、〈三の巻〉倭漢三才図会、〈八十二の巻〉本草啓蒙〈卅の巻〉に見ゆ、伊豆国にては古我多比(こがたび)とよびて、葉は舶来肉桂に似て、末小尖り、表裏共に色つやヽかなり、実は紫葛(くまつヾら)の実〈紫葛関東にてかまえびといふ〉より小し大きくて、三四五顆房おなして結(な)り、初は青色、熟れば濃紫色なり、中に天瓜〓(たまづさね)の貌なる〓あるよし、門人藤井昌栄〈伊豆三島神主〉いへり、さて多万乃木とは、実の円にて玉に似たる故の名也、陀母(だも)、多夫(たぶ)、多菩(たぼ)は通音也、久須陀毛(くすだも)は香玉(くさだま)にて、香(くさ)きよしなり、玉久左(たまくさ)、玉我良(たまがら)、加良陀毛(からだも)なども玉のよしある名なり、古我多比(こがたび)も小香玉の通音にて、古(こ)と小(お)と通ふすしは、余已に佐野渡の注釈にいひたり、又此木の一種に、葉末尖らず、裏に白毛ありて、実胡頽子(みなはしろぐみ)ばかりなるが、十顆或は二三十顆附合て結り、初は青色、熟れば赤きものあり、白陀母(しろだも)、白多夫(しろたぶ)、裏白(うらしろ)、都豆乃木(つヾのき)、油木(あぶらのき)、須々便伊(すヽべい)、白都豆(しろつヾ)、乎支乃三乃木(おきのみのき)、阿加多比(あかたび)などよぶ、乎支乃三乃木といふは、小香(おか)の実の木の心也、阿加多比は赤玉の通音にて、実の赤ければ也、白陀母、白多夫、白都豆、裏白などは、葉裏の白色によれるなり、又大多比(おほたび)とて葉いとおほきく、裏小白くて古我多比よりも大なる実二顆許房おなして結り、初青色、熟後濃紫色なるがあり、古我多比より下品、白多夫よりは上品のよし、藤井昌栄いへり、大多比といふは、葉も実も大なるによれる名也、かく一種にて形状異なるは、松に男松、女松、姫松、橿に白橿赤橿などあるがごとし、