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大和本草
十二花木
空木(うつぎ) 四月に白花お開く、卯の花と雲、観賞すべし、古歌に多く詠ぜり、歌人これお雪に比せり、水お好む、漢名未詳、唐詩には此花お不詠、其葉は両々相対す、長枝多し、実は胡椒に似たり、其樹高四五尺にすぎず、其木中(なか)空虚也、故にうつ木と雲、其木理細膩なり、用之器とし、木釘とす、花の千葉なるものあり、順和名抄に、溲疏お宇豆木と訓ず非なり、本草の説に不合、本草別に楊櫨あり、一名空疏、坊間の刊本にうつきと訓ず、然ども本草に其子為莢(さや)とあり、うつきには莢なし、此訓亦非なり、又谷空木あり、木は空木の如く、葉は苧に似て花淡紅なり、木空虚ならず、空木の性不知、其麁皮お去て青き皮、癬瘡の薬に合す、〈◯中略〉 山うつ木 四月花お開く、十姉妹と相似て不同、小木なり、花紅白なり、京畿の俗はこれおも卯の花と雲、古歌に詠ぜし卯の花には非ず、京都近辺の山に多し、牡荊の類なるべし、