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茅窻漫録

木花桜 木花(○○)は古今集序細注よりして、千載以来梅花の名と成れり、されども其起りお考索するに、梅花にあらず、桜花なり、木花開耶姫五字は、神代紀下一書第二に、妾是大山祇神之子、名神吾田鹿葦津姫、亦名木花開耶姫とあるお権輿とす、〈又木華ともあり〉木花は桜樹にて、鎮座伝記に、伊勢朝熊神社以桜樹、為木花開耶姫霊〈さくら、さくや音通ず、見延経之注、〉此朝熊社、桜宮ともいふ、西行の歌あり、〈◯中略〉此外にも桜樹お祭りて、木花開耶姫とするは、駿河の富士浅間もおなじ、一宮紀に見えたり、神名式に、甲斐国山梨郡金桜神社、在金峯山、三代実録に、貞観七年十二月廿日丁卯、令甲斐国於山梨郡致祭浅間明神とあるも、皆伊勢朝明郡布自神社、桜神社と同じく、一体一神なり、此桜樹木花開耶姫お王仁はよみたるなり、故に万葉集第二十に、 桜花今盛りなり難波の海おしてる宮にきこしめすなへ 是は王仁が難波津に開耶木花の歌おふくみてよみたるなり、〈◯中略〉桜は此邦山野自然生の樹にて、木花開耶の転音なり、〈さくやさくら〉一説に咲簇(さきむらがる)の訓ともいふ、〈きむの反く〉最初花お名付けて賞美せり、〈◯下略〉