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大和本草
十二花木
桜 文選沈休早発定山詩、山桜発欲然、註果木名、花朱色如火欲〓然也、王荊公詩曰、山桜抱石映松枝、司馬温公の詩に曰、紅桜零落杏花開、是中華に桜と雲は朱花なり、日本の桜と雲物は中華に無之由、延宝年中長崎に来りし何清甫いへり、若あらば中華の書に記し、詩文に述作し、賞詠すべきに、此樹なきと雲は実説なるべし、朝鮮にはあり、昔年朝鮮より漂来る舟の篷桁にしたるお見るに、疑ひもなき本邦のさくら也、奈木と雲へり、其花お問しに、朝鮮の客答て、二三月淡紅白花お開く愛すべしといへり、中華には梓お以書お刻む、日本には桜お用ゆ、木堅くして良材なり、凡土宜によりて品物有無あり、是自然之理なり不可疑、此木百年の寿なし、処々に刀にて皮おたてにわるべし、栄へて命長し、日本に昔は梅お花と雲、中世以来桜お花と雲、日本にて花お賞するにこれお第一とす、桜花の品甚多し、あげてかぞへがたし、単あり、八重あり、八重にして赤お帯るあり、緋桜と雲、青お帯るあり、あさぎ桜と雲、香有り、